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Siril で楽しむ天体写真 入門#1(基礎知識・撮影編)

近年は高性能な画像処理ソフトが充実してきたことで素人でもハイレベルな天体写真を作成できるようになりました。

この記事では無料ながらも高性能な画像処理ソフト Siril を活用して天体写真を美しく仕上げる方法を解説します。

天体写真に取り組むには、撮影から画像処理まで幅広い知識が必要です。

ですから、この記事は2部構成とし、第1部では画像処理の基礎知識と、画像処理に適した撮影の方法を解説します。

次の第2部の記事では Siril での画像処理の詳細な手順を解説します。

撮影から画像処理まで多くの工程がありますが、自分の手で美しい天体写真を仕上げることができた時は感度ひとしおです。皆さんも是非トライしてみて下さい。

Siril でできる画像処理

まず撮影方法の解説の前に、 Siril でできる画像処理について解説したいと思います。

なぜなら、撮影では画像処理を前提とした画像を撮る必要があるからです。撮影と画像処理の両輪で美しい天体写真を作り上げることができるのです。

Siril は有料ソフト顔負けなほど様々な画像処理が可能で、天体写真を仕上げる上で必要な機能は全て揃っています。

画像処理の中でもメインとなる スタッキング(重ね合わせ) は他の有料ソフトよりも速いとの評判です。

スタッキング は処理時間に数分もかかる場合があり、画像処理で試行錯誤するような場合はストレスになりかねません。しかし、Siril なら短時間で終わってしまうので、ストレス無く画像処理の工程をこなすことが可能です。

それでは、Siril でできる画像処理を1つずつ解説していきます。

スタッキング(重ね合わせ)

スタッキングとは同じ構図で撮影した写真を何枚も重ね合わせることで様々な効果を生み出す画像処理です。

画像を分析し微妙に位置がズレている場合は補正した上で画像を重ね合わせるという処理になります。

このような難しい処理であるため、近年性能が上がったパソコンでも数分かかるような非常に重たい処理になっています。

その分メリットは大きいです。そのメリットについて見ていきましょう。

【メリット1】ノイズ低減

長時間露光を行うと、カメラのセンサーに起因するランダムノイズが発生します。複数の画像をスタッキングすることで、ランダムに発生したノイズは平均化され、星の光に対して相対的に低減させることが可能なのです。

【メリット2】天体のディテール強化

スタッキングを行うことで、微弱な天体の光の情報をより多く集めることができるので、天体の繊細なディテールを引き出すことが可能です。

例えば 1 分の露出の画像を 32 枚撮って重ね合わせることで、32 分間露出したのと同じだけ光を集めた効果が得られるのです。

写真はより多くの光を集めることでディテールが強化され、美しい仕上がりになります。

【メリット3】失敗フレームの除去

天体写真を撮っていると、次のように様々な要因で失敗フレーム(画像)となることがあります。

失敗フレームの要因

  • 衛星の通過
  • 車などのライトの混入
  • 雲の通過
  • カメラへの接触によるブレ

スタッキングの際にこれらの失敗フレームを除外することで、最終的な画像の品質を向上させることができます。

1枚の写真で長時間露出を行って最後に車のライトが入ってしまって写真がパアになってしまう、なんていうリスクを抑えることができるのです。

【メリット4】白飛び防止

星空は暗いようですが、星雲などの天体と1等星などの恒星では明るさに大きな差があります。星雲などの天体に合わせて露出してしまうと、恒星は白飛びしてしまって星たちの色情報が失われてしまいます。

これでは立体感のある天体写真には仕上がりません。

複数の短時間露出画像を合成することで、カメラのダイナミックレンジの中でバランスの取れた画像を生成することが可能になります。

【メリット5】追尾誤差の軽減

赤道儀は堅牢で高精度なものほど追尾精度は高くなります。しかし、その分値段も物凄く高いものになってしまいます。

短時間の露出であれば、例えば自作の赤道儀であっても追尾誤差は目立たなくなります。

追尾誤差により僅かにズレていく星については、スタッキング処理により合わせ込みができます。

これにより安価な赤道儀や、はたまた三脚固定の撮影でもスタッキングにより長時間露出の効果を手にすることが可能になります。

高度な明るさ調整(GHSによるストレッチ)

通常は天体を撮影した写真は非常に暗い画像になります。画像を処理して暗く写った天体を明るく調整することで、天体を浮かび上がらせることができます。

天体の繊細なディテールは Photoshop のような一般的な画像処理アプリでは対処できないほど微細なヒストグラムの調整が必要です。

Siril では天体写真の明るさ(ヒストグラム)調整の決定版とも言える GHS(Generalized Hyperbolic Stretch) を搭載しています。

GHSでは 5 つパラメータを微細に調節することで、淡い天体のディテールを引き出し美しい天体写真に仕上げることが可能です。

GHS はスタッキングに並ぶ重要な画像処理と言えるでしょう。

フラット補正(光学系歪み補正)

望遠鏡やカメラレンズは極力歪みの無い平坦な像を結ぶように設計されていますが、それでも設計上、製造上の歪みが出てしまうものです。

この歪みは天体のような繊細なものを写した場合には無視できないものになります。

フラット補正はこの光学系の歪みを補正する画像処理です。

実際には極力理想的な真っ白で何も写っていない画像(フラットな画像)を撮影し、これを使って撮影した天体写真を逆に補正してやることでフラット化します。

バイアス補正(センサ不良ピクセル補正)

カメラのセンサは何百万とある全てピクセルが正常では無く、一定数の不良ピクセルが含まれています。

不良ピクセルは光の有り無しにかかわらずいつも同じ値を出力するので、例えば星が無いにもかかわらず点が写っているというようなことが起きます。

天体写真で暗い画像を明るくすることで、この不良ピクセルが目立ってしまうことがあります。

Siril ではこの不良ピクセルのデータをあらかじめ取り除く処理が可能です。

この処理のためには、何も写らないセンサの不良ピクセルだけが写っている真っ暗な画像を撮影して、これを補正に使います。

ダーク補正(センサ系ノイズ補正)

デジタルカメラは当然なが電子回路で構成されています。センサやその周辺の回路では必ずノイズが発生します。センサ、信号処理、SDカードなどの記憶媒体への記録という信号の流れの中でノイズが発生し、それが画像に記録されてしまうのです。

このノイズは撮影時のカメラの温度などに依存して一定のパターンで発生します。

これについても、これまでの補正と同じようにセンサ系のノイズだけを撮影した真っ暗な画像を撮影して、これを補正に使います。

背景かぶり除去(Background Extraction)

天体写真を撮ると光害により背景がぼんやりと明るく写り込んでしまう 背景かぶり が発生することがあります。

実際の宇宙は真っ暗ですので、黒い背景に天体が写っていて欲しいものです。

Siril にはこの邪魔な背景かぶりを数クリックで簡単に除去する機能が搭載されています。

逆畳み込み(Deconvolution)

星はとても遠くにあるので、理論的には写真には点として写り込むはずです。しかし、実際には小さな丸がにじんだように写ります。これは望遠鏡やレンズの光学系の性能や、大気のゆらぎによるものです。

このにじみが大きすぎると星たちが少々ぼやけた写真になってしまいます。

これを補正する処理が 逆畳み込み(Deconvolution) になります。Siril には、PSF(Point Spread Function)を活用した高度な補正機能が搭載されています。

これにより星や天体の細部をよりシャープにすることが可能です。

撮影の前に

必要な機材を揃える

天体写真を撮影するには、以下の機材が必要です。

天体撮影に必要な機材

  • デジタルカメラ(デジタル一眼レフ、ミラーレス、または冷却CCD/CMOSカメラ)
  • 望遠鏡または望遠レンズ
  • 赤道儀(追尾装置)
  • 三脚

初心者の方にとって赤道儀を揃えるのはハードルが高いかもしれません。大きな天体望遠鏡を搭載できるような本格的な赤道儀は非常に高価になりますが、簡易な赤道儀は「ポータブル赤道儀」として販売されており、数万円程度で購入が可能です。

また、広角レンズで星空を撮影する場合は、三脚だけで撮影しても問題無いと思います。

ご自分の都合に合わせて機材を揃えてみて下さい。

撮影地の選定

街明かりで空が明るい所では天体の微かな光が埋もれてしまって、美しい天体写真を撮影するのは難しいです。

では何処に行けば良いのでしょうか?適当に田舎に行くのも良いですが、もう少し科学的なアプローチで撮影地を選定します。

そのために lightpolutionmap というサイトを活用するのがオススメです。

図のように街明かりの度合いが地図上に表示されるのでこれを参考に撮影地を探してみましょう。

山を登る道の途中の展望台や、山頂付近に設けられた駐車場などを利用している人も多いようです。

撮影日時を決める

空が綺麗な場所であっても月が上っている時間帯はやはり天体撮影には不向きです。従って月が沈んでいる時間帯を選びます。

満月付近はほぼ一晩中月が上っているので避ける必要があるでしょう。

夕方から夜半にかけて撮影する場合は、下弦の月の時期から新月の時期までが撮影可能な期間になります。

また、太陽が沈んでからもしばらくは空が明るいです。これを 天文薄明 と言います。天文薄明の終了時刻を知るには 日本と世界の日の出日の入り時間 というサイトが便利かもしれません。このような便利なサイトがあるなんて、サイト運営者の方には感謝ですね。

事前準備:補正用画像の撮影

高品質な画像を得るためには、以下の補正用の画像(フレーム)を撮影することが推奨されます。これらは前の項でご説明した画像処理に対応したものです。

【注意!】撮影は全てRAW形式で記録

天体写真の画像処理では RAW形式 のデータを利用します。ですので、補正画像や実際の天体の撮影においても 必ずRAW形式のデータを記録 するようにしておきましょう。

JPEG形式のデータは記録してもしなくてもどちらでも構いません。クイックに撮影した画像を確認したい場合はJPEGも同時に記録しておくと便利です。

フラットフレーム撮影(光学系歪み補正)

画像処理の項でもご説明した通り、「真っ白で何も写っていないフラットな画像」を撮影します。

フラットフレームの撮影方法は曇り空を撮るとか、専用の光源を撮るなど色々な方法が紹介されていますが、筆者はスマホやタブレットの画面を撮影する方法をお勧めします。

手順としては以下のようになります。

  1. スマホやタブレットでURLの欄に about:blank と入力すると真っ白な画面が表示されます
  2. この画面を撮影するカメラ、レンズで天体撮影時と全く同じ設定でシャッタースピードだけ変えて撮影します
  3. ズームレンズなら同じ焦点距離に設定します
  4. ピントは無限大(∞)(画面に焦点を合わせる必要はありません。真っ白なのでオートフォーカスも効きません。)
  5. シャッタースピードは露出が過度にオーバー、アンダーにならないようにヒストグラムの中心が50%程度になるように調整して下さい
  6. 必要があればスマホやタブレットの画面の明るさも調整して下さい

Siril ではこの画像を使ってホワイトバランスも自動で調整してくれるので、なるべく色再現性の良いデバイスが推奨されます。

Apple 製品である iPhone や iPad はカラーコントロールが徹底されていて、プロが利用できる品質になっていることで有名です。ですので、特に画面の広い iPad があればこれを利用するのが最も良い選択だと思います。

なお、この補正画像は光学系の補正なので撮影地で無くてご自宅で撮影することで問題ありません。

バイアスフレーム撮影(センサ不良ピクセル補正)

センサ不良ピクセルの補正のために撮影します。以下のように設定して撮影して下さい。

  1. レンズはキャップなどで塞ぐ
  2. 最速のシャッタースピード(1/4000 秒 とか 1/8000 秒など、カメラの最速の設定)
  3. 天体撮影の時に使用するISOに設定

この補正画像もセンサ不良の補正なので撮影地で無くてご自宅で撮影することで問題ありません。

ダークフレーム撮影(センサ系ノイズ補正)

センサ系のノイズを除去するために補正画像を撮影します。以下のように設定して撮影して下さい。

  1. レンズはキャップなどで塞ぐ
  2. シャッタースピード、ISO(感度)を天体撮影時と同じ設定(絞りは光学系なので設定は何でも構いません。)
  3. カメラの温度を天体撮影時と同じ状態にする(天体撮影する際に撮影)

上記の3番目の条件は、電子回路に発生するノイズは回路の温度に依存するために設定されている条件です。

このため、ダークフレームの撮影は撮影地で天体撮影をする際に同時にしておくことが最も良いと思います。

ハイアマチュアの方は冷却カメラを使われていますが、これはセンサ系のノイズを極力減らすために積極的に回路を冷やす機能が搭載されたカメラになっているのです。

いよいよ天体撮影

さて、いよいよ天体撮影をします。カメラは次のことを考慮して設定しましょう。

絞り

レンズは開放値よりも1〜2段絞って収差を抑えたシャープな画像を得ます。レンズの性能が良く、絞り開放からシャープな画像が得られるのであれば絞り開放でも良いと思います。

シャッタースピード

暗い天体を撮影する場合はある程度長い時間の露出が必要です。但し、画像処理で複数枚を合成するこが可能なので、30秒から90秒程度の露出に設定するのが一般的です。

固定撮影の場合

また、赤道儀による追尾を行わなず、三脚に固定して撮影する場合は、「500ルール」を目安にしてシャッタースピードを設定します。

500 ルール

これは(500 ÷ 焦点距離)で求められる数値をシャッタースピードに設定するというものです。例えば標準の 50 mm レンズであれば、 500 ÷ 50 = 10 と求められるように、10 秒 をシャッタースピードにするというものです。これにより星があまり流れて見えないようにできます。

厳密には星は動いているのですが、この程度のシャッタースピードであれば星を ほぼ点 に写すことができます。人によっては 200ルール で決めている方もおられるようですので、自分の納得のいく方法で試してみて下さい。

記録形式(RAW形式)

Siril の画像処理を行うには RAW形式 のデータが必要です。かならず RAW形式 のデータが残るようにカメラを設定して下さい。逆に JPEG形式のファイルは不要ですので、使い道が無いのであれば残す必要はありません。

感度(ISO)

最近では高感度に対応するカメラも多く出てきています。しかし、高感度に設定すると天体の繊細なディテールは潰れがちになります。

一方であまりに低感度ではそもそも天体が写らないということになってしまいます。

ですから一般的にはISO800〜1600が推奨されます。これもご自分で試行錯誤してみて下さい。自分なりに研究するのも天体写真の楽しみの一つです。

レリーズ/セルフタイマー

通常のスナップショットと異なり、何秒もシャッターを開けるため、そっとシャッターボタンを触ってもカメラがブレて星が流れてしまいます。

ですので、レリーズをつけて遠隔でシャッターを切るか、セルフタイマーを活用してシャッターボタンに触れてから数秒後にシャッターが切れるようにして撮影を行います。

筆者はセルフタイマーであれば2秒に設定して撮影しています。

撮影枚数

スタッキングの高価は前述した通りですが、一体何枚程度撮影すると良いのでしょうか?

ハイアマチュアの方であれば合計の露出時間が 1時間 以上 になるように撮影されています。例えば1枚1分の写真を60枚といった具合です。

一方で初心者の方であれば合計の露出時間が 15 分程度であってもそこそこの画像が得られますので、まずはハードルを下げてトライしてみるのがよさそうです。

まとめ

第1部では Siril による画像処理の概要について解説し、また画像処理を前提とした補正画像と天体の撮影方法について解説しました。

画像処理の内容を良く理解できていれば撮影時も悩むことが少ないと思います。十分予習をした上で天体写真撮影に出かけてみて下さい。

また、写真が取れたら後はじっくりと時間をかけて画像処理をすることができます。天体写真の楽しみは画像処理の工程にも続くので長く楽しむことができますね。

第2部では Siril での画像処理の操作方法について詳しく解説させて頂きますので、こちらも参考にしてみて下さい。

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